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会長挨拶

 第36回日本青年期精神療法学会総会を大阪で開催させていただくことになりました。
 今回のテーマは「青年期の発達障害と精神療法」といたしました。近年、児童青年期の臨床現場では発達障害への関心が高まり、その治療や支援にもさまざまな工夫がこらされるようになりました。発達障害を持つ児童や青年に対する私たちの治療力・支援力は、一昔前と比べて格段に進歩したと思いたいところです。しかし、個々の事例に目を向けると、事態は必ずしもそのような楽観を許さないようにも見えます。実際の治療や支援の中では、依然として、試行錯誤を繰り返したり、うまくいかなかったりする事例を経験されている方も少なくないのではないでしょうか。
 青年期の発達障害に絞って考えると、次のような問題が未解決の課題や論点として残されているように思えます。まず、児童期の発達障害と比較して、得られた知見自体がまだ限られているということです。臨床や研究のさらなる積み重ねが要請されていることは間違いありません。次に、発達障害を持つ青年の治療・支援における精神療法の位置づけです。彼らの治療や支援においては、発達障害を変化しない特性と捉え、“環境面での配慮や調整”に重きを置く立場が優勢で、従来の意味での精神療法には付加的な位置づけしか与えられていないような印象を持ちます。青年期精神療法に関心を持つ者として、このような状況をどのように捉えるべきかという論点が残されていると思います。最後に、青年期発達障害に対する精神療法の現状です。彼らに対しては、環境への適応改善を目指す心理教育や認知行動療法的働きかけが中心であり、精神内界を探索する力動的精神療法については、探索に必要な心理的“道具”を彼らが備えていないという理由で避けられる傾向にあるのが現状かと思います。しかし、発達障害がスペクトラムであるという一点だけを捉えても、このような二分法的理解ではおそらく不十分です。一人一人異なる発達障害青年に、よりフィットした精神療法を考えていくことが、今後の私達に与えられた課題と言えるのではないでしょうか。
 本総会では、お二人の先生に特別講演をお願いしました。お一人目は、私たちの大先輩として、本学会の前身の青年期精神医学交流会の時代から長きにわたって本学会を牽引して来られた清水將之先生(三重県特別顧問)です。先生には「21世紀に『青年期』を考えるという営み」のテーマでお話しいただきます。お二人目は、大人の発達障害、ユング派の心理療法の分野で大変ご高名な河合俊雄先生(京都大学こころの未来研究センター)です。先生には「発達の非定型化と思春期心性の変容」のテーマでお話しいただきます。また、総会テーマに関連したパネルディスカッションとして「発達障害学生の社会参加支援―卒業後の就労・生活を組み立てる」を企画しました。パネリストには、山田加奈子先生(大阪市職業リハビリテーションセンター)、岩田淳子先生(成蹊大学学生相談室)、田中究先生(兵庫県立ひょうごこころの医療センター)をお願いいたしました。山田先生にはケースワーカーの立場から、岩田先生には学生相談室カウンセラーの立場から、田中先生には精神科医の立場から、それぞれテーマに関連したご発表をいただくことになっています。一般演題は、今年も本学会の特色である時間をかけての検討ができるようにいたしました。
 開催にあたり、数多くの方々にご支援をいただきました。座長をお引き受けいただいた先生方、一般演題をお寄せいただいた先生方、多大なご支援いただきましたかく・にしかわ診療所の郭麗月先生、大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室の池田学教授、関係機関の方々に心より御礼申し上げます。
 皆様のご参加を心からお待ち申し上げます。

第36回日本青年期精神療法学会総会会長 水田 一郎